以下の文章はちゆ12歳(http://tiyu.to/)から転載したものです。 平成13年9月13日 米国で同時多発テロ  米国で同時多発テロが発生しました。  ハイジャックされた飛行機に突っ込まれて、世界貿易センタービルが倒壊。国防総省も燃えました。  今後どのように事態が発展していくか分かりませんが、とりあえず、 この事件に深く関わっているだろうパレスチナ問題について、振り返ってみようかと思います。  そんなわけで、今日は「ネットアイドルちゆのパレスチナ問題入門」です。  パレスチナ問題の大元は、宗教にあります。  ユダヤ教の聖書(キリスト教の旧約聖書)によると、ノアの子孫にあたるアブラハムという人が、 神の命に従ってカナン(パレスチナ)にたどり着き、次のような神の啓示を受けました。  わたしは、あなたが滞在しているこのカナンのすべての土地を、あなたとその子孫に、永久の所有地として与える。 わたしは彼らの神となる。  (創世記17章8節)  アブラハムの子孫たちは、その土地に王国を作って栄えます。しかし、やがて他国に滅ぼされてしまいました。  その際、上流階級や知識人はバビロンに連行されてしまいます。彼らはそこで奴隷生活を強いられながら、 預言者を中心にユダヤ教をまとめ、ユダヤ民族として団結していきました。  その後、どうにか彼らはパレスチナに帰れましたが、他民族に支配される生活は変わりません。 ユダヤ教の神殿も作ったり壊されたりで、信仰を捨てさせられるユダヤ人もいました。  それでも支配に抵抗し続けた人たちも多くいましたが、やがてパレスチナを追い出され、 ユダヤ人は世界中に離散してしまいます。  特に、キリスト教の国へ移り住んだユダヤ人への差別や偏見はひどく、 十字軍の遠征の際など、ユダヤ人は片っ端から殺されました。  その他、「天災はユダヤ人のせいだ」と言われては殺され、 「ペストをばらまいたのもユダヤ人だ」と言われては殺されました。  そうした中、ユダヤ人の中で「神と約束した土地に戻って、自分たちの国を作ろう」という運動が起こります。  そこに第1次世界大戦が起こって、イギリスが「戦争に協力してくれたら、パレスチナに国を作らせてあげる」と 約束してくれました。  ところで、ユダヤ人が追い出された後、パレスチナにはアラブ人が住んでいました。 彼らもまた、アブラハムの子孫にあたる民族です。  ただし、こちらはイスラム教徒。ユダヤ教やキリスト教と同じ神を信じていますが、 ユダヤ教徒・キリスト教徒は神の言葉を誤解しており、自分たちの信仰こそ神の本当の教えだと考えている人たちです。  そんなアラブ人たちはオスマン=トルコ帝国に支配されていました。 しかし、イギリスは彼らにも「戦争に協力してくれたら、独立させてあげる」と約束します。  つまり、パレスチナにユダヤ人の国を作る約束と、アラブ人の独立国家を作る約束。 イギリスは2つの矛盾する約束を交わしたわけです。  結局、イギリスは戦争に勝ちましたが、アラブ人の国もユダヤ人の国も作られず、 パレスチナはイギリスの植民地になりました。  そうしてアラブ人が植民地支配されているパレスチナに、「ここは俺たちの土地だ」と大勢のユダヤ人が入り込んできます。  片や、1000年以上の流浪生活を経て、ようやく約束の地に帰ってきたユダヤ人。 片や、すでに1000年以上そこに住んでいるアラブ人。  イギリスの二枚舌外交に端を発した両民族の対立が、パレスチナの地で激化することになります。  この辺り、主に悪いのはイギリスですので覚えておきましょう。  ともあれ、イギリスはその混乱や紛争を収められず、国連に泣きつきます。 国連はパレスチナの土地を分割して、それぞれにアラブ人やユダヤ人の国を作ることを認めました。  すると、ユダヤ人はイスラエル共和国を作り、アラブ人を攻撃して追い出そうとします。 当然アラブ人も黙っておらず、周辺のアラブ諸国もこれに味方して、第1次中東戦争が始まりました。  この戦争で、ユダヤ人側が勝利。イスラエルの領土は国連が決めたよりも広くなって、アラブ人の領土は狭くなります。  そうして100万人以上のアラブ人が住む場所を失い、難民になりました。 この難民たちや、パレスチナ地方に住んでいるアラブ人のことをパレスチナ人といいます。  こうしてイスラエル(ユダヤ人・ユダヤ教)とパレスチナ人(アラブ人・イスラム教)の対立は決定的になり、 中東戦争は第4次まで起こります。  特に、第3次中東戦争ではパレスチナ全土がイスラエルに占領され、多くのパレスチナ人が難民になりました。  パレスチナ人からすれば、キリスト教国の一方的な都合に振り回され、 長年住んできた土地を奪われて、今も多くの人が苦しい生活を強いられていることになります。  国連の調査によると、約550万人のパレスチナ人のうち、難民は300万人。 そのうち100万人はキャンプ生活者で、自由な水の使用さえイスラエルに管理されている地域もあります。  彼らはイスラエル人の迫害の中、死と隣り合わせで暮らしているのです。  そして、発言力のあるユダヤ系の移民が多い米国は、イスラエルによるパレスチナ人への弾圧を支持。  パレスチナでどれだけ民間人が殺されようと、リーダーが暗殺されようと、日本も米国もほとんど見て見ぬフリでした。  今回のテロを喜んでいるパレスチナ人がいると聞いて、その感覚を疑うかも知れません。 しかし、私たちが異国の見知らぬ人たちの悲劇にまで胸を痛める余裕があるのも、 安穏と豊かな暮らしを送れていればこそです。  自分たちの苦しい生活の元凶である米国が「何か一矢報いられたらしい」と聞けば、 彼らがザマアミロくらい思っても不思議はありません。  ともあれ、民主主義社会の立場から見てテロ行為とその犯人は間違いなく悪です。 しかし、パキスタンやイスラム教が悪なのではありませんし、米国が正義でもありません。  ゲームのように悪いラスボスを倒せば解決するものではなく、複雑で根の深い問題です。  …具体的な解決策などを提案できれば良いと思ったのですが、悲しいくらい何も浮かびませんでした。